鎌倉時代、銭の貸借や商業・流通関係の訴訟は「雑務沙汰」と呼ばれ、訴訟制度が整っていない分野のひとつであった。
これは古代以来のことで、そのため11世紀頃まで国制の外におかれていた神人や寄人たちは、自立的な金融・流通のネットワークを組織し、裁判も自分たちで行い、その判決を自らの実力と武力で執行していた。 もちろんこれは公権力にとっては具合の悪いことで、12世紀~13世紀初め頃までに、王朝国家(朝廷)は、神人・寄人の活動に対する統制を強化する一方、神人・供御人制を公的な制度として、その活動に枠をはめていった。 しかし、13世紀後半~14世紀にかけ、さらに貨幣経済が発展すると、金融・商業の組織や廻船のネットワークは、それ以前より巨大化、複雑化、緊密化し、公権力の枠をこえて独自の動きを強め、交通路や流通路を自立的に管理する人びとの組織が目立ってくる(「悪党」・「海賊」→網野善彦・著「日本の歴史をよみなおす(全)」【中世の商業・金融ネットワーク(1)貨幣経済と市庭】)。 こうした鎌倉時代の金融・商業ネットワーク(ある種の商業ギルド)の形態には、おそらく「マグリブの商人(代理人制度を利用した縁故主義)」型や「ジェノバの商人(教会を後ろ盾として裁判制度を利用する個人信用主義)」型によく似たものや、それらを混交したものがあっただろう(→【前項】)。技術やシステムといった「型」は、容易に国境を越えて伝播する(→【市をめぐる誇大妄想(4)交易語】)。 「マグリブの商人」型によく似たものは、婚姻によって血縁ネットワークを拡大してゆく方法がある。宮家が古来より多くの妃・女官・宮人を有したのも(→天武天皇【市をめぐる誇大妄想(23)逆縁の皇子】・額田王【市をめぐる誇大妄想(17)額田王】・橘美千代【市をめぐる誇大妄想(19)橘三千代】・村上天皇【とはずがたり(9)再び「おなじながれ」】・後嵯峨天皇【「亀谷」(6)宗尊親王の御所】・後深草院【「増鏡」】・後醍醐天皇【『祖師堂』(3)鎌倉尼五山・第二位「東慶寺」】・→女官【『本堺』(13)山海の幸を分配する「しゃくし」】・北条泰時の母は鎌倉幕府の女官・阿波局→【宿坊港湾都市(2)将軍来臨】・【市をめぐる誇大妄想(7)宮女と王権】)、その血縁を通じて列島の津々浦々まで交易ネットワークを行き渡らせるためでもあったはずだ。 一方で「ジェノバの商人」型によく似たものは、平安~鎌倉時代の神社(と神人)や鎌倉新仏教の寺(と僧)があり、裁判制度には鎌倉幕府の訴訟法「雑務沙汰」があった。
by jmpostjp
| 2010-04-01 12:43
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